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「僕の人生は悲劇だと思っていた。でも今は気づいた。これは喜劇なんだ。」
アメコミ映画史上、最も危険で、最も美しく、そして最も悲しい作品。
『バットマン』の悪役として有名なジョーカー。しかし本作に、ヒーローは登場しません。
描かれるのは、都会の片隅で懸命に生きようとした一人の孤独な男が、社会の無関心と理不尽によって「悪」へと堕ちていくプロセスだけです。
主演ホアキン・フェニックスが24キロ減量して挑んだ、骨と皮だけの背中。
発作的に込み上げる笑いと、その裏にある慟哭。
第76回ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞し、世界中で「模倣犯が出るのではないか」と社会現象(あるいは警戒警報)を巻き起こした問題作。
この映画を見て、あなたは彼を抱きしめたくなるでしょうか? それとも恐怖で震え上がるでしょうか?
- おすすめ度: ★★★★★(4.8/5.0)
- こんな人におすすめ: 圧倒的な演技を見たい人、社会の暗部に目を向けられる人、『タクシードライバー』が好きな人。※精神的に落ち込んでいる時の鑑賞は推奨しません。
1. 作品情報とIMDbスコア(世界基準の客観評価)
コミック映画として史上初めてアカデミー賞主演男優賞を受賞。R指定映画として初めて興行収入10億ドルを突破するという記録づくめの作品です。
| 項目 | 詳細データ |
|---|---|
| 邦題 / 原題 | ジョーカー / Joker |
| カテゴリー | 映画(洋画) |
| ジャンル | ドラマ / スリラー / クライム |
| IMDbスコア | 8.4 / 10 (Top 100入り) |
| Rotten Tomatoes | 批評家 69% / 観客 88% |
| 監督 | トッド・フィリップス (『ハングオーバー!』シリーズ) |
| 公開年 / 上映時間 | 2019年 / 122分 |
主要キャスト・登場人物
ホアキン・フェニックスの独壇場ですが、伝説の名優ロバート・デ・ニーロがテレビ司会者役として出演し、『キング・オブ・コメディ』へのオマージュを捧げています。
| キャラクター | 俳優 (Actor) | 役柄・備考 |
|---|---|---|
| アーサー・フレック | ホアキン・フェニックス (Joaquin Phoenix) | ピエロ派遣業で働く孤独な男。 脳の損傷により、緊張すると突発的に笑い出してしまう病気を抱えている。コメディアンを目指している。 |
| マレー・フランクリン | ロバート・デ・ニーロ (Robert De Niro) | 人気トークショーの司会者。 アーサーが憧れ、父親のように慕う存在だが、あるきっかけでアーサーを番組に招待する。 |
| ソフィー | ザジー・ビーツ (Zazie Beetz) | 同じアパートに住むシングルマザー。 アーサーが想いを寄せる相手。 |
| ペニー・フレック | フランセス・コンロイ (Frances Conroy) | アーサーの病気の母。 かつて大富豪ウェイン家で働いており、トーマス・ウェインに助けを求める手紙を書き続けている。 |
2. 『ジョーカー』あらすじ(ネタバレなし)
「ハッピーな顔をして(Put on a Happy Face)」
財政難により荒廃し、貧富の差が拡大する都市ゴッサム・シティ。
「どんな時も笑顔で」という母の言葉を信じ、ピエロとして働きながらコメディアンを目指すアーサー・フレックは、ドン底の生活を送っていた。
看板持ちの仕事中に不良少年に暴行され、同僚から護身用にと渡された拳銃が、彼の運命を狂わせる。
小児病棟での仕事中に銃を落としてしまい、解雇されるアーサー。
失意の帰宅途中、地下鉄で酔ったエリートサラリーマン3人に絡まれ、暴力を振るわれた時、彼は無意識に引き金を引いていた。
この事件がきっかけで、ゴッサムの貧困層の間で「ピエロの仮面を被った謎の処刑人」が英雄視され始め、暴動の機運が高まっていく。
一方、自分の出生の秘密と母の過去を知ったアーサーの中で、何かが完全に壊れようとしていた。
物語の構成と見どころ
ホアキン・フェニックスの「怪演」
この映画の9割はホアキン・フェニックスの顔と身体で構成されています。
肋骨が浮き出るほど痩せ細った体躯、不気味で優雅なダンス、そして「痛み」を感じさせる笑い声。
演技という枠を超えた、憑依とも言えるパフォーマンスは、見る者の精神を侵食します。
美しくも陰鬱な映像美
汚れた路地裏、蛍光灯の冷たい光、そしてアーサーが着るスーツの鮮やかな赤。
70年代のアメリカ映画(『タクシードライバー』など)を意識したざらついた質感と色彩設計が、ゴッサム・シティの腐敗と狂気を芸術的に映し出しています。
3. 海外の評判・レビューと「人気の理由」
「傑作だが、危険すぎる」として、公開当時はアメリカ警察が映画館の警備を強化する異例の事態となりました。
👍 評価される点:社会への問いかけ
- 弱者への視点:
福祉予算のカット、社会的弱者への冷遇、持てる者(ウェイン家)の傲慢さ。
現代社会が抱える問題を痛烈に風刺しており、「アーサーは私かもしれない」という共感を呼びました。 - 音楽の力:
ヒドゥル・グドナドッティルによるチェロを基調とした重低音のスコアが、アーサーの心の内にある不安と怒りを完璧に表現しています。
👎 批判・注意点:暴力の肯定?
- インセル(不本意な禁欲主義者)の英雄視:
社会から拒絶された男が暴力を振るうことで承認されるという展開が、実際の犯罪を誘発する恐れがあるとして、一部の批評家からは厳しく批判されました。
🧐 よくある疑問:バットマンとの関係は?
本作はDCコミックスを原作としていますが、独立した作品(エルスワールド)として制作されました。
しかし、若き日のブルース・ウェイン(後のバットマン)や、執事のアルフレッドが登場し、ジョーカー誕生とバットマン誕生の因縁が新たな解釈で描かれています。
① 「信頼できない語り手」のトリック
この映画最大の恐怖は、どこまでが現実で、どこまでがアーサーの妄想かわからない点にあります。
恋人ソフィーとの甘い日々が実は全て妄想だったように、もしかすると映画全体が、ラストシーンで精神病院にいるアーサーが作り上げた「ジョーク」なのかもしれません。
時計の針が常に同じ時間を指していることなど、画面の端々に散りばめられた違和感を探すのも一興です。
② アーサーはなぜ踊るのか
物語の前半、アーサーの動きは重く、背中は丸まっています。
しかし、殺人を犯した後や、ジョーカーとして覚醒していくにつれて、彼は軽やかに、優雅に踊り始めます。
あのダンスは、彼が社会の規律(善悪)から解放され、狂気という自由を手に入れた歓喜の舞なのです。
階段を降りながら踊るシーンは、彼が人間としての尊厳を捨て、悪の象徴へと「堕ちていく」姿を、逆説的に「昇華」として描いた名場面です。
⚠️ WARNING ⚠️
ここから先はネタバレを含みます。
衝撃の真実と、あのテレビ番組の結末について解説しています。
5. 【ネタバレ注意】結末と核心の解説
母の嘘と虐待の過去
アーサーは、自分がトーマス・ウェインの隠し子だと信じていましたが、精神病院の記録から残酷な真実を知ります。
彼は養子であり、幼少期に母の交際相手から激しい虐待を受け、その外傷によって脳に損傷を負い「笑う病気」になったのです。
そして母ペニーは、虐待を見て見ぬふりをする妄想性障害だったことも判明します。
唯一の愛着対象だった母に裏切られたアーサーは、病室で母を窒息死させ、「アーサー・フレック」としての人生に別れを告げます。
「マレー・フランクリン・ショー」の悲劇
アーサーの拙いスタンドアップコメディの映像を番組で晒し者にした司会者マレー。
彼に招待されたアーサーは、派手なメイクとスーツで「ジョーカー」として番組に出演します。
「僕をジョーカーと紹介してくれ」
生放送中、アーサーは自身の孤独と社会への怒りを淡々と語り、自虐ネタではなく、隠し持っていた銃でマレーの頭を撃ち抜きます。
テレビカメラの前で行われたこの殺人は、瞬く間にゴッサム中に拡散されます。
悪のカリスマの誕生
逮捕され、パトカーで連行されるジョーカー。
しかし、暴徒化した市民が救急車でパトカーに突っ込み、彼を救出します。
炎と暴動に包まれる街で、意識を取り戻したジョーカーは、自らの血で唇に笑いを描き、熱狂する群衆の前でダンスを踊ります。
その同じ夜、路地裏では暴徒の一人がトーマス・ウェイン夫妻を射殺。両親の死を目撃した少年ブルース・ウェイン(後のバットマン)が取り残されます。
ラストシーン:赤い足跡
場面は変わり、精神病院のカウンセリング室。
「面白いジョークを思いついた」と笑うアーサー。「聞かせて」と言うカウンセラーに対し、彼は「あなたには理解できない(You wouldn’t get it)」と答えます。
そして、血のついた足跡を残しながら廊下を歩くアーサーの姿で、映画は幕を閉じます。
これは全て彼の妄想だったのか? それともここから脱走してまた新たな喜劇を始めるのか? その答えは闇の中です。
6. まとめ・視聴方法
続編『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』を見る前に、この伝説の始まりを目に焼き付けてください。鑑賞後は、しばらく誰とも話したくない気分になるかもしれませんが、それは映画の魔力にかかった証拠です。
どこで見れる?(配信・レンタル状況)
U-NEXT、Amazon Prime Video、Netflixなどで視聴可能です。
※配信状況は執筆時点のものです。
▼ 次に見るべき関連作品
- 『タクシードライバー』: マーティン・スコセッシ監督×デ・ニーロ主演。本作が多大な影響を受けた、孤独な男の暴走を描く金字塔。
- 『キング・オブ・コメディ』: 同じくスコセッシ×デ・ニーロ。コメディアンを目指す男が有名司会者を誘拐する話で、本作と対になる作品です。
- 『ダークナイト』: ヒース・レジャー演じる「完成されたジョーカー」が登場。アーサーとは違う、絶対的な悪のカリスマ性を比較するのも一興です。
